保釈について
芸能人や著名人が事件を起こして逮捕され、起訴される至った場合、報道番組やワイドショーなどで「○○さんは本日保釈されました」というニュースをしばしば耳にすることがあるかと思います。
今回は、起訴された被告人の身体解放手段である、「保釈」についてお話したいと思います。
保釈とは、一定額の保釈保証金の納付を条件として、勾留中の被告人を刑事裁判が終わるまでの間、裁判所(単独の裁判官も含みます。以下、同じ。)により、一時的に解放してもらう手続きをいいます。保釈が認められれば、身柄拘束が解かれることになります。住居や旅行等に関して一定の制限を受けることはありますが、自宅に帰れるのは勿論のこと、職場にも復帰することができるようになりますので、被告人にとって社会復帰ができる保釈は非常に大きな意味を持ちます。
【保釈の種類】
保釈には、㈰権利保釈、㈪裁量保釈、㈫義務的保釈の3つがあります。
- 権利保釈(刑事訴訟法第89条)
裁判所は、刑事訴訟法第89条各号に規定する事由が存在しない場合に
は、必ず被告人の保釈を認めなければなりません。これを権利保釈といい
ます。 - 裁量保釈(同法第90条)
仮に、権利保釈が認められない場合でも、裁判所が適当と認める時は、
裁量によって被告人の保釈を認める場合があります。これを裁量保釈とい
います。 - 義務的保釈(同法第91条)
勾留の期間が不当に長くなった時には、裁判所は被告人の保釈を認めな
ければならないとされています。これを義務的保釈といいます。
これらのうち実務においては㈪の裁量保釈が認められることがほとんどです。また、本来は㈰の権利保釈の要件を満たしている場合でも㈪の裁量保釈として保釈が認められることが実務の現状です。
そして、裁判所に保釈を認めてもらうために特に重要なのは、被告人に罪証隠滅のおそれがないこと(同法89条4号、5号)と逃亡のおそれがないこと(同条6号)です(勿論、事案によりその他の要件が重要視すべき場合もあります。)。弁護人が被告人のために保釈請求をする場合には、主にこれらのおそれがないということを積極的に裁判所へ強調してゆくことになります。
【保釈実現に向けた弁護活動】
被告人の保釈実現に向けて、弁護人は以下のような弁護活動を行います。
保釈請求書の作成・提出
被告人には権利保釈が認められるべきであること、また、仮に権利保釈が認
められない場合であっても裁量保釈が認められる事案であることを記載した
保釈請求書を作成し、それらの主張を裏付ける証拠(証拠の収集は、弁護人や被告人で行わなければなりません。)と共に裁判所に提出します。
特に前述した保釈を認めてもらうための重要な要素である、被告人に罪証隠滅や逃亡のおそれはない点について、具体的かつ説得的に主張していきます。
身元引受人の確保、身元引受書の作成・提出
保釈を認めてもらうためには、被告人の身元を引き受け(引き受け先を制限住居といい、被告人は保釈期間中制限住居において生活しなければなりません。)、保釈期間中の被告人の生活を監督する身元引受人の存在が必要不可欠です。
弁護人は、被告人の親族など身元引受人として適格(被告人の保釈中の生活を監督する能力が備わっているかどうか)がある人物を確保し、身元引受人となることの了承を取り付けた上で身元引受書を作成し、前記保釈請求書とともに裁判所に提出します。
検察官との交渉
裁判所へ保釈請求をすると、裁判所は検察官に対し、被告人から保釈請求があった旨通知し、これに対する意見を求めます(これを「求意見」といいます。)。
弁護人としては保釈請求の前後で担当検察官に連絡を入れて、保釈要件が十分備わっていることを強調し、裁判所からの求意見に対し、反対意見を述べないような交渉をします。
また、弁護人は検察官の求意見に対する意見書を閲覧及びコピーをすることができるのでその内容を確認した上で、のちに述べる裁判官面接に備えます。
裁判官との面接・保釈保証金の準備
検察官からの求意見に対する意見書が裁判所へ出された段階で、弁護人は裁判官面接をします。
そこで、弁護人は、検察官の意見書を前提として、保釈請求書には顕れてない事情等を担当裁判官と直接面接をして保釈請求を認めてもらえるように働きかけをしてゆきます。
そして、保釈が認められる場合には、保釈保証金の納付が条件となるのですが、保釈保証金は被告人が保釈後逃亡せずに刑事裁判へきちんと出頭するに足りる金額を、担当裁判官が当該犯罪の性質、被告人の認否、被告人の財力など様々な要素を考慮して総合的に決定するのですが(同法第93条2項)、一般的に150万円から300万円の間で決定されるのが一般です。
弁護人は、裁判官面接の際に、被告人の支払能力を具体的に説明し、保釈保証金が適切な金額に決定してもらえるように交渉をします。
なお、保釈保証金は、被告人が刑事裁判に出席し、無事に判決が言い渡されると原則として全額が戻ってきます。しかしながら、保釈条件に違反した場合は保釈が取り消され(同法96条)、保釈保証金の全部又は一部が没収されることとなります。
保釈は被告人の社会復帰に向けた大きな一歩であり、また一度保釈請求が却下されたとしても再度保釈請求をすることは可能です。諦めることなく裁判所に対して働きかけていくことが重要です。
保釈についてお困りのことがあれば、当所弁護士までお気軽にご相談ください。