「支払不能」と「支払停止」

新型コロナウィルスの影響や、その他の影響で資金繰りが苦しくなった。破産を検討したい。破産を裁判所に申し立てるためには法律が定める破産手続開始の要件を満たす必要があります。

そこで、今回は破産手続開始の原因として定められる「支払不能」と、その判断に大きな影響を与える「支払停止」について紹介します。

「支払不能」と「支払停止」

「支払不能」と「支払停止」については破産法15条に定めがあります。

 

破産法15条(破産手続開始の原因)

1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。

2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

 

 このように定められていますので、破産手続を開始するためには「支払不能」であることが必要となります(なお、合名会社及び合資会社を除いた法人の場合は「債務超過」でも可能です。)

 そして、「支払停止」がある場合には「支払不能」が推定されるということになるので「支払不能」ではないと反証されなければ「支払不能」であると認められることになります。

「支払不能」とは

「支払不能」については、破産法2条11項に定義規定が置いてあります。

破産法2条11項

この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態…をいう。

  ※…で省略した箇所にはかっこ書きで信託財産についての説明があります。

 

 この定義について詳しく見ていきます。

 まず、「支払能力を欠く」とは、債務を弁済するために必要な資金が不足していることをいいます。

 次に、「一般的…に弁済することができない」という点ですが、弁済期にある債務のすべてを支払うことができないことを意味しています。つまり、弁済期にある債務のうち一部について支払うことができたとしても全てを支払うことができないのであれば一般的に弁済することができないということになります。

 そして、「継続的に」と定めがあるのは、一時的に弁済することができない場合という程度で「支払不能」とすることがないようにするためといわれています。

 以上をまとめると、弁済期にある債務のすべてを弁済するために必要な資金が継続的に不足している場合に「支払不能」が認められることになります。

「支払停止」

他方、「支払停止」については法律上定めがあるものではありません。もっとも、大判昭和15年9月28日民集19巻1897頁で「支払停止」の意義について紹介しています。この判例の要旨を紹介しますと、支払停止とは債務者が資力欠乏のため債務の支払をなすことができないことを明示または黙示に表示する行為をいうものとされています。そして、この判例の判示の中で客観的に支払不能を要件とするものではないとして、原審の判断を否定しています。そうすると、支払不能は支払うことができないということを明示(つまり、はっきりと示す)または黙示に(夜逃げなど支払うことができないことを事実上示すこと)表示すればよいということになります。

 ところで、なぜ「支払停止」が「支払不能」を推定するとされているのでしょうか。「支払不能」は財産や信用力、稼働力、弁済期にある債務などを総合した債務者の客観的な財産状態で判断されることになります。そうすると、破産手続の開始のために客観的な財産状態を証明しないとならないことになり、それには困難が伴います。そのため、法は支払いができないということを表示する行為である「支払停止」という証明が容易な方法を用意しているとされています。

「債務超過」

先ほど、合名会社と合資会社以外の法人の場合は、「債務超過」でも破産手続の開始要件を満たすことを紹介しました。そこで、「債務超過」についても簡単に紹介しておきます。

 債務超過とは、弁済期にあるかどうかを問わず、消極財産(つまり、マイナスの財産)の総額が積極財産(つまり、プラスの財産)である資産の総額を超過することをいいます。

 法人の場合は信用の基礎が積極財産にあるため、消極財産が積極財産を上回ればその信用の基礎を欠くことになるから破産手続開始の要件として認めているとされています。

まとめ

以上で、「支払不能」と「支払停止」を紹介しましたが、あくまで破産手続開始の要件としては「支払不能」ですが、その状態を立証するのが困難であることを考慮して表示行為である「支払停止」から「支払不能」を推定できるようにしたということになります。

 もっとも、「支払停止」から推定できるという法律上の定めこそありますが、裁判所の破産手続を利用する人に向けたホームページを見ても破産手続開始にあたっては、その立証準備をはじめ様々な準備が必要となることに注意が必要です。

 当所では、依頼者様からの相談を踏まえ、破産をすべきかどうか慎重に判断し、依頼者様にアドバイスしていきます。その上で、自己破産の道を選ぶことになった場合は破産手続が円滑に進むよう依頼者様の財産状況を詳細に調査や書類作成等様々活動してゆきます。

 

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