個人事業主、法人が破産する場合の受任通知

当所のコラムで、受任通知について一般消費者向けの場合を紹介したことがあります。そこでは、一般消費者向けの場合には、直接の取立てを防ぐためにも受任通知を送るという対応が有効であるという説明をしました。

 

当所コラム:破産手続と受任通知(一般消費者向け)

 

では、個人事業主や法人の場合はどうなのでしょうか。今回、個人事業主や法人に焦点を当てながら受任通知の注意点について紹介したいと思います。

個人事業主や法人の場合

一般の個人である場合は、貸金業者などからお金を借りたが利子もかさんでしまい返せなくなった、クレジットカードなどを使いすぎてしまったことなどをきっかけとして破産という選択肢を取るというケースが多いと思われるため、こうした貸金業者等からの取立てを止めるという点で受任通知が大きな意味を持つことが多いです。

しかし、個人事業主や法人の場合を中心にこれとは事情が異なる場合があります。

⑴ 強硬な取立て

法人の場合、破産をすることは会社を解散することを意味します(株式会社の場合につき会社法471条5号、持分会社の場合641条6号)。また、法人に限らず個人事業主の場合でも、破産手続の間は、自由な財産の処分ができなくなります。

債権者としては、自分の債権を回収できなくなるといった事態は回避したいのですから、そうなる前に債権回収をしたいと考えるのは自然なことです。そこで、個人の場合はともかく相手が個人事業主や法人であれば、まだ財産があるだろうと債権者が考え、強硬な債権回収を行うということも起こり得ることになります。

破産関係の依頼を受けたということを知らせる受任通知は、依頼者が破産をしようとしているという情報を与えるきっかけとなりますので、書面上強硬な取立てをしないよう強く要請していたとしても、結果的にこのような強硬な債権回収を誘発するおそれが生じてしまうのです(なお、破産までいかないようにするためにする任意整理関連の受任通知の場合でも、危機的状況にあることを知らせる点で似た影響を生じさせることもあり得ます)。

⑵ 公租公課

また、個人事業主や法人の場合には、取引規模が大きくなるために負担する公租公課も大きくなると思われますが、その結果として負債に公租公課(いわゆる税金など)が大きく絡んでくる場合もあり得ます。しかし、負債に公租公課が絡む場合には別の問題も生じます。

一般に差押えなどの強制執行をかけるには裁判所で訴えを認めてもらいそれが確定するなどの方法で債務名義を取得する必要があります。しかし、税金の場合はこうした手続きを経ることなく行政独自のルート(例えば、国税徴収法47条1項は「滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき」(同項1号)に「徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない」としていますので行政独自で強制執行の段階にまで移行することが可能です。)で強制執行を実現することが可能です。

そうすると、強制執行の必要性があることを知らせるきっかけとなる受任通知が送られれば、国税局などが税を確実に徴収するため強制執行という選択に出るということも生じ得ますので、今よりも悪い結果を生じさせる(最悪の場合では破産のために必要な資金まで失う)場合もあり得えてしまいます。

⑶ 小括

このように、特に個人事業主や法人の場合には、受任通知を送るべきではない場合があるのです。

まとめ

破産をするにもお金が必要ですし、手続を行うために必要な情報を取得するために時間も必要です。そうした状況において個人事業主や法人は、破産の準備を秘密裏に進める必要があることもあります。特に状況を知られてはいけない債権者には、破産を行う必要がある危機的状況を知られないようにしなければなりません。その意味で、特に個人事業主や法人の場合は、受任通知に対する過度な期待はしない方がよいかもしれません。

当所では、個人事業主や法人のお客様の任意整理、破産に関する相談やご依頼も受け付けております。依頼者様との入念な情報共有をした上で、受任通知を送るべきかそうでないかを判断し、依頼者様が安心して今後を見据えて再出発することができるようにしてゆきます。

まずはお気軽にご相談ください。

Follow me!

コラム

次の記事

婚約の成立について