一部執行猶予について

はじめに

前回、全部の執行猶予中の犯行について紹介しましたが、その中で最近一部執行猶予という制度が導入されたことも紹介しました。そこで、今回は一部執行猶予に焦点を当てて紹介します。

一部執行猶予とは

一部執行猶予とは、刑の全部の執行猶予と違い、宣告された刑の一部の執行を猶予するというものです(刑法27条の2)。

 一部執行猶予となった場合には、まず猶予されなかった期間の刑の執行がなされ、懲役の場合であればその期間は服役をすることになります。その服役が終わった後、猶予された刑について執行猶予期間がスタートし(刑法27条の2第2項)、その期間が満了すれば猶予された刑については執行されないようになり、猶予されなかった部分の刑に減軽されることになります(刑法27条の7)。

 なお、一部執行猶予での服役にも仮釈放の制度の適用はありますので、仮釈放の結果より早く刑務所から出ることもあり得ます。

一部執行猶予となりうる場合とは

一部執行猶予判決となりうるには以下の事情が必要です。

①3年以下の懲役又は禁錮であること

②以下のいずれかに当てはまること

ア 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

イ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者

ウ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

以上の①と②に該当する場合で、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、一部執行猶予が相当であると判断されれば一部執行猶予が言い渡されることになります。

薬物事犯の場合の特殊性

一部執行猶予について薬物(大麻取締法に規定する大麻や覚せい剤取締法に規定する覚せい剤)事犯では薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律が定められています。この場合には刑の一部執行猶予の特則として前科の要件がなくなっています(同法3条)。そうすると、薬物事犯に関しては累犯者(前に禁錮以上の刑に処せられたことがあり、その執行を終わった日またはその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられた場合など)であっても3年以下の懲役又は禁錮であれば一部執行猶予が適用され得ることになります。

 実際に、覚せい剤取締法違反で全部執行猶予付き有罪判決を受けた人が執行猶予期間中に再度覚せい剤取締法違反で起訴され、有罪となった際に刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物の依存の改善に資する処遇を実施すべきであると判断されて、一部執行猶予の制度が適用された事例があります。

一部執行猶予制度導入後の考え方

一部執行猶予の制度は、実刑か全部執行猶予かという選択肢の中間に位置づけられる制度ではありません。では、どういう制度かといいますと、まず、実刑か全部執行猶予か判断した後、実刑相当と判断した場合に一部執行猶予とすべきかどうか判断する道を作ったものであると言われています。

そうすると、検討の流れとしては、まず、全部執行猶予が獲得できるか検討したうえで、獲得が不可能または困難と判断した場合に一部執行猶予の検討をすることになります。

ただし、実刑の場合、刑の執行を終えればその瞬間完全に自由な状態となりますが、一部執行猶予の場合、服役後にも一部執行猶予期間は場合によっては保護観察に付される可能性があります(刑法27条の3第1項)し、前回紹介したような執行猶予期間中に取り消されるような事情が生じてしまえば再度服役をしなければならないということになります。その点で依頼者様がどちらを望むか十分な情報を提供したうえで検討する必要があります。

まとめ

以上で紹介したとおり、一部執行猶予制度が導入されたことにより、仮に全部の執行猶予を得ることができず、服役になってしまった場合も服役の期間が短くなる可能性が広がりました。特に薬物事犯においては社会内での構成が望ましいと判断されれば薬物事犯についての前科がある場合でも服役する期間が短くなる道が広がり、より社会復帰がしやすくなったといえます。

当所では初回の面談時(又は警察署や拘置所での接見時)に必ず前刑を確認させて頂き、執行猶予条件を満たすことができる事件か否かを速やかに判断し、全部執行猶予の条件を満たさないと判断した場合でも依頼者様とよく相談しながら一部執行猶予を求めるか否か依頼者様にとってのベストの方針を検討し、その方針に沿って有利な情状に関する証拠収集に直ちに着手してゆきます。

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