執行猶予期間中に罪を犯した場合について
はじめに
刑の執行猶予を受けた場合、すぐに刑は執行されることはなく、執行猶予期間を経過すればその刑を受けることはなくなります。しかし、執行猶予期間中に再度罪を犯してしまった場合、前に受けた執行猶予付きの判決にどのような影響があるのでしょうか。裁判官が執行猶予付きの判決を言い渡した際に執行猶予期間中に罪を犯した場合には執行猶予が取り消されてしまうと言われることもあるように執行猶予が取り消されてしまうのでしょうか。
今回は、刑の執行猶予中に罪を犯した場合についてご紹介します。
なお、平成28年6月1日施行の法律により、これまでの刑の全部の執行を猶予する制度に加え、刑の一部の執行を猶予するという制度が導入されましたがここでは刑の全部の執行を猶予する制度の場合についてご紹介することにします。
執行猶予とは
執行猶予とは、犯罪をするに至った事情などから必ずしも現実的な刑の執行を必要としない場合に、一定期間その執行を猶予し、執行猶予期間が経過するまでに執行猶予の言渡しが取り消されなかったときは、刑罰権を消滅させる制度のことです。刑罰権が消滅した場合には、刑の言渡しの効力が将来的に消滅し、資格制限なども将来に向けてなくなることになります。つまり、執行猶予付き判決で言い渡された刑罰を受けることはなくなります。
執行猶予期間中に犯行があった場合
執行猶予が取り消される場合
執行猶予期間中にさらに罪を犯して禁錮以上(死刑、懲役、禁錮)の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがなかったときには執行猶予は取り消されてしまいます(刑法26条1号)。執行猶予が取り消されてしまった場合には新たに言い渡された刑に加え、執行猶予付きで言い渡された刑も受けなければならないことになってしまいます。
また、禁錮以上の刑でなくとも、罰金に処せられたときには刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができるとされています(刑法26条の2第1号)。それ以外にも保護観察に付されていた場合に遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いときにも刑の全部の執行猶予の取消しがされることがあります(刑法26条の2第2号)。これらの場合でも、裁判所が執行猶予の取消しが必要と判断して取り消されてしまえばやはり刑を受けなければいけなくなってしまいます。
執行猶予が取り消されない場合
では、執行猶予中に罪を犯した場合で執行猶予の取消しを受けずに済む場合はないのでしょうか。
執行猶予期間中に罪を犯した場合であっても、取消しができる場合にならない限り執行猶予は取り消されませんから、不起訴処分になれば保護観察に付されていない限りは執行猶予の取消しを受けることはありません。
また、保護観察が付されていないか行政官庁の処分によって保護観察が仮に解除されていた場合であって、1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがある場合には刑の全部の執行猶予となることがあります(刑法25条2項)。この場合にも刑の全部の執行猶予が取り消される場合には当たりませんから刑の全部の執行猶予の取消しを受けることにはなりません。
執行猶予取消しの手続き
では、この執行猶予の取消しはどのような手続きによってなされるのでしょうか。
執行猶予の取消しは、執行猶予の刑の言渡しを受けた者に対する新たな罰金以上の刑が確定してから、検察官が、裁判所に対して請求し(刑事訴訟法349条1項)、裁判所が決定をする(刑事訴訟法349条の2第1項)という手続となっています。
そうすると、執行猶予の言渡しが取り消されるには、執行猶予の取消しを請求する要件を満たしたうえで、検察官が執行猶予の取消しを請求し、裁判所が決定することが必要になります。
つまり、執行猶予期間中に罪を犯した場合であっても、新たな罰金以上の刑が確定し、執行猶予取消しの決定がなされるまでの間に執行猶予期間が満了した場合には、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う(刑法27条)とされていますから、執行猶予の取消しがされることにはなりません。
まとめ
以上から、執行猶予中に罪を犯した場合に執行猶予の取消しを回避するには、不起訴処分を得る、刑の全部の執行猶予を得る、執行猶予期間が満了となるという方法があり得ることになります。
当所では初回の面談時(又は警察署や拘置所での接見時)に執行猶予中であるか否かを確認させていただき、執行猶予期間中である場合に依頼者様の執行猶予が取り消される場合にあたるか否か、執行猶予が取り消されるおそれがある場合にあたるとしても執行猶予の取消しを回避することができるか速やかに判断し、依頼者様にとってベストの結果となるための手段を選択してゆきます。