免責の要件について
破産をする最大のメリットは免責を受けることではないかと思われます。もっとも、実際に免責はどうやって受けられるのでしょうか。先日、免責の効果について紹介しました。
コラム:破産による免責の効果
そこで、今回はどうやれば免責を受けることができるのか、免責の要件について紹介します。
免責の申立て
まず、破産法の条文についてみていくことにします。
破産法第248条1項
個人である債務者は、破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始の決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責許可の申立てをすることができる。(かっこ書省略)
つまり、免責を受けるためには、破産開始決定の申立てをしてから破産手続開始の決定が確定した日の1か月後までの間に免責許可の申立てをしないといけないということになります。これだけ聞くと手続きが大変なように思えますが、破産法にはこんな条文もあります。
破産法248条4項
債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす。ただし、当該債務者が破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。
つまり、債務者は破産手続開始の申立てさえすれば免責許可の申立てをしたものとして扱われるということになります。ただし書にあるように、破産手続開始の申立ての際に免責許可の申立てをすることに反対の意思を表示している場合は別ですが、そうでなければ、破産の申立てをする場合には免責許可の申立てもしていることになるので、しなければいけない手続きは少なくてすむことになります。
免責許可の申立てに対する裁判所の判断
免責許可の申立てがあった場合、裁判所が免責を許可するか否か判断をすることになりますが、裁判所がどのような判断をするかも条文に定めがあります。
破産法第252条1項
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
このような定めとなっていますので、いわゆる免責不許可事由と呼ばれる事情がなければ免責許可の決定がされることになります。
また、
破産法第252条2項
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
という定めもありますので、仮に免責不許可事由があったとしても免責が許可される場合もあります。
免責不許可事由
では、免責不許可事由にはどのようなものがあるのでしょうか。
1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
2号 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
3号 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
5号 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
6号 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
7号 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
8号 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
9号 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
10号 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
11号 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
以上が、破産法で定められている免責不許可事由です。これだけ見ても分かりにくいと思いますので少し説明を加えます。
⑴ 1号から5号は経済生活上の出来事が関係するものです。
1号から3号については、条文に書いてあるとおりなのですが、要は、債権者を害する目的で財産隠しをしたり、破産手続開始を遅らせる目的で著しく不利益な条件で債務を負担したり、特定の債権者に対して特別の利益を与えるために債務について弁済をしたりすることです。
4号は、ギャンブルや遊興のために著しく財産を減らしたり、過大な借金をしたりするような場合のことです。
5号は、自分が1年以内に破産をすると知っているときに、詐術を用いた信用取引で財産を得たような場合のことです。
⑵ 6号から9号と11号は破産手続と関係するものです。
6号は帳簿・書類を隠滅したり偽造したりすること、7号は虚偽の債権者名簿を提出すること、8号は説明を拒否したり、虚偽の説明をすること、9号は不正な手段で破産管財人らの職務を妨害すること、11号は当所の破産手続開始決定と破産者の義務のコラムで紹介したことがありますが、説明義務や重要財産開示義務などに違反することです。
⑶ 残った10号は期間に関するものです。
これは、短期間に免責許可の申立てなどが繰り返されることを防ぐためのもので、例えば、免責許可の決定の確定の日から7年以内に免責許可の申立てがされていれば、この免責不許可事由に該当することになります。
まとめ
以上で紹介したような免責不許可事由がなければ、裁判所に免責許可決定をしてもらえることになります。他方で、免責不許可事由がある場合でも、場合によっては免責許可決定がされることもあり得ます。ただ、破産という大きな決断をする以上免責不許可事由に該当してしまうようなことは避けられるなら避けたいものと言えます。
当所では、上記の免責不許可事由も踏まえながら、依頼者様に破産という選択肢を取る場合の注意事項についてアドバイスをするなど、依頼者様が円滑に再出発をすることができるよう法的サポートをしてゆきます。
まずはお気軽にご相談ください。