勾留の考え方について

逮捕された。逮捕されたら勾留がセットになって23日間(なお、この日数の根拠ですが、逮捕による身柄拘束時間が最大72時間、勾留による身柄拘束期間が最大20日間であることに拠ります。)出られなくなる。様々な場所でそのような説明がされることがあります。しかし、実際には逮捕はされたけれど勾留はされなかったという事案も多数あります。当所でも逮捕勾留からの早期釈放に向けた活動について紹介したことがありますし、逮捕後に勾留を回避させることができた実績もあります。

コラム:逮捕・勾留からの早期釈放

解決事例:検察官による勾留請求を回避させ、早期釈放されたケース

 

前回は逮捕について紹介しましたので、今回は実際に裁判官や検察官がどのような点に着目して勾留をするかどうか判断しているか。いわゆる勾留の要件について紹介します。

勾留の要件

勾留の要件について刑事訴訟法は以下のように定めています。

 

刑事訴訟法第60条1項

  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

 1号 被告人が定まった住居を有しないとき

 2号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき

 3号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

つまり、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることを前提に1号~3号のいずれかに当てはまるという場合に勾留することができるということになります。

 ただし、条文には書かれていませんが、勾留するためにはこれ以外にも勾留の必要性があることが要件とされています。

 なお、ここに書かれているのは被告人の場合ですが、逮捕された被疑者段階の場合には、刑事訴訟法207条1項等により準用されることになります。

 では、それぞれを詳しく見ていくことにします。

罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由

まず、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」についてはこのように考えられています。すなわち、捜査機関の単なる主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏づけられた客観的・合理的な嫌疑でなければならないものの、捜査段階のことであるから、有罪判決の事実認定に要求される合理的疑いを超える程度の高度の証明は必要でなく、また、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までも要求されていないとされています(大阪高判昭和50年12月2日判タ335号232頁参照)。

 つまり、証拠資料に基づかないといけないものの、捜査段階であることを考慮した程度の疑いがあればいいということになります。そうすると、勾留をするかどうかの判断に当たっては、逮捕されていることが前提になりますので、少なくとも逮捕するに値する程度の疑いはあることが前提となり、その上で勾留に値する程度の疑いがあるかどうかをみていくことになります。

定まった住居を有しないとき

この点については、住所や居所を有しないという意味であると理解されています。ただし、住所が明らかでないときや住所が分からないときも「定まった住居を有しないとき」にあたるとされています。なので、住所自体は有するものの、何らかの理由により路上で捕まってしまい、住所を黙秘し、その後の捜査によっても住所が判明しなかった場合には「定まった住居を有しないとき」にあたることになります。

罪証隠滅のおそれ

「罪証隠滅のおそれ」は、証拠に対する不正な働きかけによって、裁判官や検察官の終局的な判断を誤らせたり、捜査や公判に混乱を生じさせたりするおそれのことを意味します。「罪証隠滅のおそれ」は対象、態様、余地(客観的可能性と実効性)、主観的可能性の点から判断されます。

 対象は、被疑事実、つまり逮捕される原因となった犯罪事実に関する証拠が対象となります。

 態様は、予想される証拠に対する働きかけのことです。捨てることができる物的証拠はもちろんですが被害者や目撃者への働きかけなども態様として考えられます。

 余地は、客観的に実行可能かどうかという点と実行したとして効果があるかどうかという点で判断されます。例えば、すでに警察で確保した証拠について証拠隠滅することはまず不可能ですし、目撃者が警察官である場合に警察官に働きかけて証言を変えさせるということもあまり現実的ではありませんので、この場合、余地は低いと評価されることになります。

 主観的可能性は、被疑者に罪証隠滅行為を行うつもりがあるかどうかということです。この点は被疑者自身の供述態度が重要な判断要素となり、例えば一貫して犯行を認めていて、真摯な反省の態度が見られるという場合には、罪証隠滅行為をするとは考えにくいと判断されやすくなります。

逃亡のおそれ

逃亡とは、被疑者が捜査機関や裁判所に対して所在不明になることを意味します。

逃亡のおそれは、被疑者の生活状況の側面と被疑者に処罰を免れる意図がどの程度あるかという点で判断されます。

生活状況の側面は例えば単身で定職についていないという場合には逃亡のおそれがあると判断されやすくなります。また、処罰を免れる意図があるというのは事案が重大で重い刑が科されるおそれがある場合や、執行猶予中の犯行であり執行猶予が取り消されるおそれがある場合に逃亡のおそれがあると判断されやすくなります。

勾留の必要性

以上の点のほかにも、勾留は重大な人権侵害になりますので、勾留の必要性も問題となります。つまり、被疑者の身柄を拘束しなければならない積極的な必要性とその拘束によって被疑者が被る不利益・苦痛・弊害とを比較して検討されることになるのです。前回紹介した逮捕と比較すると、身体拘束期間が長くなり、人権侵害の程度も強くなってきますので、勾留では必要性なしという判断がされることも現実的に増えてきます。

具体的な判断基準として、起訴の可能性がどのくらいあるか、捜査の進展状況、別件逮捕・勾留の有無、勾留本来の目的の有無や程度、被疑者の個人的な事情などが考慮要素とされています。

 この点について、最高裁で重要な決定(最決平成26年11月17日判時2245号124頁)が出たことがあります。それは迷惑防止条例違反(痴漢)の被疑事実で勾留請求された被疑者について勾留するか否かの判断で出た決定です。

 そこでは、被疑者は、前科前歴がない会社員であり、逃亡のおそれが否定されていることを前提に、罪証隠滅のおそれの現実的可能性が判断されることになりましたが、罪証隠滅のおそれ自体は存在するものの、その可能性が低いため、勾留の必要性はないとした第1審の判断に誤りがないとして、勾留の必要性を認めた高裁の判断を覆しました。

 つまり、逃亡や罪証隠滅のおそれなどの事情も含めて総合的な判断として、勾留の必要性を判断していることになります。

まとめ

以上で紹介したように、勾留をするか否かには様々な要素が影響することになります。これらの点を総合的に検討し、検察官は勾留請求をするかどうか、裁判官は勾留決定をするかどうかを決めています。

 当所では、依頼者様の事情をしっかりと確認し、精査、検討した上で、検察官、裁判官に対し、勾留すべきではないことを説得的に伝えるなどの積極的な働きかけをしてゆきます。

 まずは、お気軽にご相談ください。

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