(ご注意)以下の解説は、成人の刑事事件についてのものです。未成年の刑事事件(少年事件)については、以下と流れが異なる部分があります。
捜査の開始
110番通報、被害者からの被害申告、職務質問などがをきっかけに、捜査機関(通常は警察)が犯罪の存在を認知し、捜査が開始されます。
警察は、犯行現場の状況を調査したり、現場周辺にある防犯カメラの映像を分析したり、被害者・目撃者などを事情聴取したり、周辺住民への聞き込みを行うなどして証拠を収集し、犯人の手掛かりを探します。場合によっては、裁判所から令状の発行を受けて家宅捜索・差押え等の捜査を行い、犯人を特定していきます。
逮捕
捜査の結果、犯人と疑わしい者(報道では「容疑者」と呼ばれますが、法律上は「被疑者(ひぎしゃ)」と呼びます。)が特定され、被疑者の身柄拘束が必要と判断する場合には、警察は、裁判所から令状(逮捕状)の発行を受け、被疑者を逮捕します。
被疑者を逮捕した場合、警察は、逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄や事件の関係書類、証拠等を検察官に送らなければなりません。その間に被疑者に対する取り調べが行われ、供述調書が作成されます。事件の送致を受けた検察官は、それから24時間以内に取り調べを行い、被疑者が逃亡するおそれがあるなど、身柄拘束を続ける必要があると判断した場合には、裁判所に対し勾留(こうりゅう)を請求します。これに対し、検察官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断した場合には、その時点で被疑者は釈放されます。
勾留
検察官から勾留請求がされると、裁判官が被疑者に対し質問を行い、被疑者の弁解を聞いたうえで勾留するかどうかを決めます。裁判官が勾留の必要があると判断した場合には、原則として勾留請求の日から10日間、勾留されます。この期間は拘置所や警察の留置施設に身柄を拘束され、取調べを受けたり、現場検証等に立ち会ったり等の捜査が行われることになります。これに対し、裁判官が勾留の必要がないと判断した場合には、その時点で被疑者は釈放されます。
10日間以内に捜査が終わらない等の理由で、さらに身柄拘束を延長する必要がある場合、検察官は、勾留延長を請求することができます。検察官の請求を受け、裁判官が勾留延長の必要があると判断した場合には、原則として、さらに10日間を上限として勾留が延長されます。これに対し、裁判官がこれ以上の勾留延長は必要ないと判断した場合には,その時点で被疑者は釈放されます。
検察官は、勾留期間の満期まで(勾留延長された場合は、延長後の満期まで)に、被疑者を起訴するかしないかを決定しなければなりません。起訴するかどうかを決定する権限は検察官のみが持っています。
在宅事件
これらに対し、捜査のために被疑者の身柄拘束が必要ない場合や、検察官・裁判官の判断などにより捜査中に被疑者の身柄拘束が解かれた場合には、身柄拘束を受けない状態で捜査が継続されます(一般に「在宅事件」と呼ばれます。)。
在宅事件の場合、通常、警察は、必要な捜査を終了した段階で、事件の関係書類、証拠等を検察庁に送ります(これがいわゆる「書類送検」です。)。その後、書類等を受け取った検察官で、警察の捜査内容を検討し、必要な追加捜査を行ったり、検察官自ら被疑者や関係者への事情聴取を行った上で、被疑者を起訴するかどうかを決定します。
なお、一定の軽微な犯罪については、警察限りで事件処理が終了するものもあります(いわゆる「微罪処分」など)。
起訴・不起訴の決定
検察官は、捜査の結果、被疑者に犯罪の疑いが十分にあると判断し、かつ、被疑者に対して刑罰を科す必要があると判断した場合、被疑者を起訴します。起訴とは、検察官が裁判所に対し特定の刑事事件について審理判断を求めることをいいますが、その中には、大きく分けて、「公判請求」と「略式命令請求」という2種類の手続があります。
公判請求とは、検察官が裁判所に対し、通常の公開の法廷での裁判を求める手続で、一般的に報道される刑事裁判は、こちらの手続です。なお、勾留中に公判請求された場合、勾留は起訴後も継続するのが一般的です。起訴後の勾留期間は原則として2か月ですが、その後も勾留の必要性が認められる限り、1か月ごとに更新され、勾留が続くことになります。もっとも、公判請求後に保釈請求が認められれば、その時点で釈放されます。
略式命令請求とは、検察官が、被疑者に対する刑罰としては100万円以下の罰金または科料の刑罰が相当であると判断した場合に、裁判所に対し、通常の公開の法廷での裁判を経ないで、検察官が提出する証拠の書類審査のみで裁判を終えるように求める手続です。この請求をするには、あらかじめ被疑者自身の同意が必要となります。 なお、勾留中に略式命令請求された場合、具体的なタイミングは事例により異なりますが、速やかに身柄拘束が解かれ、釈放されます。
他方で、検察官が、捜査の結果、被疑者に犯罪の疑いが十分にあるとはいえないと判断した場合(これを「嫌疑不十分」といいます。)や、被疑者に犯罪の疑いが十分にあっても、さまざまな事情を踏まえて被疑者に対して刑罰を科す必要まではないと判断した場合(これを「起訴猶予」といいます。)には、被疑者を不起訴処分とし、勾留中の被疑者は釈放されます。また、被疑者が勾留されている場合で、勾留期間中に必要な捜査を終了できなかった場合(これを「処分保留」といいます。)も、被疑者はいったん釈放され、その後、在宅で捜査が続けられます。
刑事裁判(公判)
検察官から公判請求を受けた裁判所は、期日を指定して、公開の法廷で刑事裁判を開きます。
刑事裁判では、まず、裁判所に出席している人が刑事裁判の対象者(報道では「被告」と呼ばれますが、法律上は「被告人」と呼びます。)の本人であることに間違いがないことを確認した上で、検察官が起訴状(どのような犯罪事実について審理判断を求めるのか等を記載した書類)を読み上げます。その後、裁判官から、被告人には黙秘権があることを告げられた上で、起訴状に書かれている犯罪事実を認めるかどうかを聞かれます(これを「罪状認否」と言います)。
次に、検察官が、被告人が有罪であることを立証するための活動を行い、その後、弁護人が、被告人が無罪であることや、被告人にとって有利な事情を立証するための活動を行います。これらの活動には、証拠書類を提出したり、証人尋問を行ったり、被告人本人の質問を行ったり、といったものがあり、それらの中から、事案に応じて必要な活動を展開することになります。
すべての立証活動が終わると、まず、検察官が、検察官の立証活動の結果や、事件において問題となる法律問題等について総括的な意見を述べ、被告人に対してどのような刑罰が適当と考えるかの意見を述べます(これを「論告求刑」といいます。)。その後、続いて弁護人が、被告人にとっての有利な事情等について、弁護人の立証活動の結果や、事件において問題となる法律問題等について総括的な意見を述べます(これを「弁論」といいます。)。そして、最後に、被告人本人が裁判官に対し意見を述べ、審理は終わります。
被告人が有罪を認める事件の場合、通常、ここまでの手続は1回の期日で完了し、その1週間前後先に、判決が言い渡されることになります。他方、被告人が有罪を争う事件の場合、判決までに数回(場合によっては数十回)の期日が開かれることもあります。
判決
裁判所は、検察官・弁護人双方の立証活動の結果を踏まえ、被告人が有罪であるかどうか、有罪である場合にはどのような刑罰を科すか等を検討し、その結果を判決によって言い渡します。
無罪判決の場合や、執行猶予付きの有罪判決の場合は、勾留されていた被告人の身柄拘束は解かれ、釈放されます。これに対し、実刑の有罪判決の場合は、その後、勾留されていない被告人も、身柄拘束を受けることになります。特に、保釈によって身柄拘束を解かれていた被告人の場合は、再保釈が認められない限り、実刑判決の言渡しの直後から身柄拘束が再開されます。