婚約の成立について

婚約をしてはじめて同居するという人もいらっしゃると思います。そして、同居している間に見えてくることもあり、特に今日の緊急事態宣言下の外出自粛という有事の中では、普段見ることのできない側面が見えてくるかもしれません。そうした中で、婚約して同居したけど合わないから破棄したいと思う人もいるかもしれません。では、婚約は法律的にどういう扱いになっているのでしょうか。今回は婚約の成立について見ていくことにします。

婚約とは

婚約について、現在の民法においては、何の規定も存在しません。他方で、判例(大連判昭和大正4年1月26日民録8輯3巻16頁)では、「婚姻の予約は将来に於て適法なる婚姻を為すへきことを目的とする契約にして其契約は亦適法にして有効なりとす」として、婚姻の予約は将来に於いて適法に婚姻することを目的とする契約であり有効であるとしています。

その上で、同判例は、「法律上之に依り当事者をして其約旨に従ひ婚姻を為さしむることを強制することを得さるも当事者の一方か其約を信したるか為めに被むりたる有形無形の損害を賠償する責に任すへきものとする」として、婚姻を強制することはできないものの、婚約を信じたことによって生じた損害について賠償する責任があることを認めています。

まとめると、婚約は、将来結婚することを目的としていて、結婚を強制することはできないけれども、婚約のとおりに結婚しなかったことで生じた損害については責任を負わせることができる契約であるということです。

婚約の成立

婚約の成立について、大審院は次の判断をしています。所謂婚姻の予約なるものは結納の取交せ其の他慣習上の儀式を挙げ因て以て男女間に将来婚姻を為さんことを約したる場合に限定せらるべきものに非ずして男女が誠心誠意を以て将来に夫婦たるべき予期の下に此の契約を為し全然此の契約なき自由なる男女と一種の身分上の差異を生ずるに至りたるときは尚婚姻の予約ありと為すに妨げなきものとす

(大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁)

つまり、当事者が誠心誠意、将来夫婦になることを合意していればよく、結納の取り交せなどの慣習上の儀式をする必要はないということを示しています。

そうすると、当事者が誠心誠意、将来夫婦となることを合意すると婚約をしたと認められることになります。では、誠心誠意、将来夫婦となることの合意があるかどうかはどう判断するのでしょうか。

この点について、判例上明確に基準を定めているものはないですが、最高裁で事例について判断をしているものはあります。

例えば、最判昭和38年9月5日民集17巻8号942頁は、出生以来旧知の仲であった男女が、21歳の時から交際をはじめ、その翌年、情交関係を結び、そこから5年以上にわたり情交関係のある交際を続けていたが、男性が別の女性と事実上の婚姻をするに至ったため、女性側から婚約破棄を理由として慰謝料請求をしたという事案において、「被上告人(女性)が上告人(男性)の求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確であつて、単なる野合私通の関係でないことを認定しているのであつて、…右認定のもとにおいては、たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる」としています。

また、最判昭和38年12月20日民集17巻12号1708頁では、高校卒業直後、男性が大学進学し、学業継続が必要であったものの、女性と将来夫婦になることを約して情交関係を結び、その後、男性が帰省するごとに情交関係を継続し、双方の両親も男性の大学卒業後は婚姻させてもよいとの考えで両者の関係を黙認していたという事情の下で、「「本件当事者は、当初肉体関係を結ぶに当つて、真面目に婚姻予約を締結していたことを認めることができる。」旨判示したものであつて、たとえ当時上告人は高等学校卒業直後であり、なお学業を継続しなければならない状態にあつたとしても、原判決の右判示は肯認できなくはない」としています。

これらの最高裁の判例からは、長期間の情交関係の継続や、当事者の婚約意思の公示性は考慮要素とされているように思います。もっとも、下級審ではその他の事情も様々考慮して最終的な結論を出しているものも一定数ありますし、誠心誠意、将来夫婦となることの合意があるかどうかの判断基準について、明確な答えを出すのは難しいのが現状といえるでしょう。

まとめ

今まで見てきたように、婚約も、先日紹介した内縁の場合と同様に一般化するのは難しいのが現状であり、今後の判例や裁判例の蓄積及び研究が期待されるところです。もっとも、婚約があったと認められ、不当な婚約破棄がなされたという場合には、慰謝料などの損害賠償請求が認められていますので、内縁と同様に安易な関係破棄は、危険といえるでしょう。

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