公訴時効について

過去に犯罪の被害に遭った、警察に被害相談へ行くか悩んでいるうちに時間が経ってしまった。今からでも犯人を処罰して欲しいけど「時効」があると聞いたことがある。諦めるのは早計です。まずは「時効」が完成していないかを確認してみましょう。

今回は刑事事件における時効のうち「公訴時効」について紹介します。

「公訴時効」とは

刑事事件関係で私たちがよくニュースなどで耳にする時効は、「公訴時効」である場合がほとんどだと思います。

「公訴時効」とは、公訴権を消滅させる効果を持つ時効のことで、一定期間経過することによって完成し、それにより時効となった犯罪について検察官が公訴の提起(いわゆる起訴)をすることができなくなるというものです。仮に「公訴時効」が完成したあとに検察官が「公訴時効」の完成した犯罪について起訴した場合には免訴の判決(刑事訴訟法337条4号)、つまり、裁判所はその犯罪事実があったかどうかを審理しない、という判断をすることになります。

なお、「公訴時効」は、公訴の提起をすることができなくなるというものなので、「公訴時効」が完成する間際になってやっと犯人を逮捕したというような場合には公訴の提起が間に合わずに結局時効を迎えてしまうということにもなり得ます。

「公訴時効」の期間

「公訴時効」の期間は刑事訴訟法250条に以下のとおり定められています。

1項 人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く)

1号 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については30年

2号 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年

3号 前二号に掲げる罪以外の罪については10年

2項 人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪

1号 死刑に当たる罪については25年

2号 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については15年

3号 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年

4号 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年

5号 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年

6号 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年

7号 拘留又は科料に当たる罪については1年

このようになっています。ここでいう罪は法定刑を基準とすることとされていますので、実際に問題になる犯罪の条文に書いてある内容と照らし合わせてこのどれに当たるかをみていくことになります。

例えば、傷害罪(刑法204条)で見ていくと、「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」と定められています。このような場合、懲役の長期は15年ということになります。また、15年以上は15年を含み、15年未満は15年を含みませんので、上の条件で見ていくと、2項3号の場合に当たります。そうすると、傷害罪の「公訴時効」は10年ということになります。

なお、殺人罪など人を死亡させた罪のうち法定刑に死刑が定められている罪には「公訴時効」の対象から除かれていますから「公訴時効」が完成することはありません。

「公訴時効」の起算点

では、「公訴時効」の起算点はいつからになるのでしょうか。

時効は、犯罪行為が終わった時から進行する(刑事訴訟法253条1項)とされています。この犯罪行為が終わった時ということについていろいろな考え方がありますが、最高裁判所はこのように考えています。

刑訴法二五三条一項にいう「犯罪行為」とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当である

(最決昭和63年2月29日刑集42巻2号314頁)

つまり、結果発生時をも含むものと理解しているということです。先ほどの傷害罪で言えば「公訴時効」の起算点は傷害の結果が発生したとき(つまり、暴行によって怪我をしたとき)を含むということになります。

なお、共犯者がいた場合には、共犯の場合には、最終の行為が終わった時から(刑事訴訟法253条2項)とされていますので、共犯者の誰かの最後の行為が日をまたいでいた場合にはまたいだ後の日から進行することになります。

ここで注意が必要なのは、期間の計算について、刑事における時効の場合には初日を算入するとされています(刑事訴訟法55条1項)ので、例えば、令和2年3月13日午後11時に傷害罪の犯罪行為が終わった場合には、後で出てくるような時効の停止ということがない限り、令和12年3月13日になった時点で「公訴時効」が完成することになります。

時効の停止

時効の停止とは、時効が停止する事情によって停止している間時効が進行しないものとして扱うことをいいます。時効の停止は時効の中断の場合と違い、停止するまでの時効の進行はそのまま残ることになりますので、時効が停止する事情がなくなった場合にはそれまで進行した部分から時効の進行が再開することになります。

時効の停止は、当該事件について公訴の提起をした場合(刑事訴訟法254条1項)、共犯者の一人に対して公訴の提起をした場合(同2項)、犯人が国外にいる場合、犯人が逃げ隠れているために有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合(同法255条1項)に起こることになります。

よく刑事ドラマで「公訴時効」が問題となるときに犯人が海外に行っていないかということが話題に上がるのは、法律上、犯人が国外にいる場合には国外にいるだけでその期間、時効が停止するとされているからです。

他方で、逃げ隠れしているというのは単に国内で逃げ隠れしているだけでは足りません。捜査機関の発見を妨げるために逃げ隠れをしていることが要求されますし、逃げ隠れをしているとされる間、逃げ隠れをしていると認められるための所在調査や送達のための適切な努力が行われていたことが必要とされていますのでこちらが適用される場合は限られてくることになります。

まとめ

今まで見てきたように「時効」と一言で言っているものも法律や判例などが複雑にかかわっていることがわかります。起算点や共犯者がいる場合、時効の停止など様々な要素がかかわってきますし、ここでは紹介しきれなかった法改正との関係などもあります。また、刑事告訴をする際には親告罪で期間制限があるかどうかという問題もありますので、素人判断で結論を出すのは早計です。

当所では、犯罪被害を受けた場合に時効の完成に十分注意しながら、刑事事件の被害者として対応すべき事柄についても様々な法律を踏まえて適切な対応や助言をしてゆきますし、必要に応じて刑事告訴等の対応も行ってゆきます。また、損害賠償等の民事事件の対応も行ってゆきます。まずはお気軽に相談ください。

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