新宿清水法律事務所

否認権について

今日の緊急事態宣言の影響により、破産という選択をせざるを得なくなったということもあり得るかもしれません。もっとも、破産するからその前に一部の友人の分だけ返してしまおうとするなど下手に借金を返そうとしてしまうと新たな面倒事が生じる可能性もあります。

今回は、一定の形でした財産処分行為に対して行われるおそれのある否認権という制度の概要について紹介します。

否認権とは

否認権について、破産法は以下のように規定しています。

 

(否認権行使の効果)

第167条1項

否認権の行使は、破産財団を原状に復させる。

 

否認権が行使された場合には原状に復されるということなので、言い換えれば元に戻ることになります。そうすると、例えば、債務者が親友への借金だけは返しておきたいと思って借りていた100万円を親友に返していた場合に、否認権が行使されれば親友に返したはずの100万円が元の状態に戻るということになってしまうということになります。

この否認権の制度は破産という制度の目的を達成するために有害な行為を取り除き債権者の平等を図るために設けられたとされています。

では、どのような場面で、否認権が行使できるとされているのでしょうか。

否認権が使われるおそれのある行為

代表的なものとしては以下のものがあります。

⑴破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(破産法160条1項1号)

⑵破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(破産法160条1項2号)

⑴と⑵は、いずれも「破産債権者を害する行為」ということですが、言い換えると、破産者の総財産を減少する行為のことで、例えば、100万円の価値があるブランドの品を友人に10万円で売るということなどが考えられます。これらは、破産者が破産債権者を害することを知ってしていることが要求されるのですが、⑵がこのような定めになっているのは支払の停止や破産手続開始の申立てをするような状況であれば破産債権者を害することになるのはわかるだろうということからとされています。

⑶破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大である場合で⑴か⑵にあたる行為(破産法160条2項)

「債務の消滅に関する行為」とは、例えば借金を返すということが挙げられます。債権者の受けた給付の価額が「債務の消滅に関する行為」によって消滅した債務の額より過大というのは、例えば10万円の借金をしていたときに100万円の価値のあるブランド品を渡して借金を返したことにした場合が考えられます。この場合、10万円が消滅した債務の額になる一方で、債権者の受けた給付の価額は100万円となりますから、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大ということになります。

⑴か⑵にあたるというのは、上で紹介したように破産債権者を害する行為と知っていたか、支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後ということです。

⑷破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為(破産法160条3項)

「支払の停止等」というのは、支払の停止又は破産手続開始の申立てのことです。無償行為とは、対価なく、財産を減少しまたは債務を増加させることをいい、代表的なのは誰かに物をあげるという贈与です。つまり、支払の停止または破産開始の申立ての前6か月以内にした贈与などの無償行為などをしてしまうと否認権を行使されるおそれが生じます。

⑸一定の場合にあたるときに相当の対価を得てした財産の処分行為(破産法161条)

通常、相当の対価を得ているのであれば財産の総価値は減少しませんのであえて否認をする必要はないように思えます。しかし、例えば不動産であれば隠すのは困難ですが、現金化すれば隠すのは容易になるでしょう。法は、隠匿等の処分をするおそれがある場合(1号)や、破産者が財産の処分行為をする際に隠匿等の処分をする意思を有していた場合(2号)、処分の相手が、財産の処分行為をする際に破産者が隠匿等の処分の意思を有していることを知っていた場合(3号)には、相当の対価を得てした財産の処分行為についても否認権を行使することを認めています。つまり、相当な対価を得ているから構わないだろうと安易に現金化をしていると否認権を使われてしまうおそれが生じます。

⑹特定の債権者に対する担保の供与等の否認(破産法162条)

一般的には借りたお金は返さなければならないものではありますが、破産者の場合は事情が少し異なります。

今ある債務についてされた担保の供与(抵当権を設定することなどがこれにあたります。)又は債務の消滅に関する行為について、こうした担保の供与や債務の消滅をしなければならない場合(1項1号)には支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にしてしまうと否認権の対象になる場合があります。

また、特約もなく代物弁済をする場合やまだ弁済期が来ておらず今すぐに返す必要がない場合など、破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない場合(1項2号)には支払不能になる前30日以内のときにしてしまうとやはり否認権の対象になる場合があります。

このように、借金を返すというような行為でも状況次第では否認権の対象となるおそれがあります。ちなみにこのような特定の債権者を優遇した債務の消滅等の行為をすることを偏頗(へんぱ)行為といいます。

まとめ

以上で見てきたように、一定の場合には財産の処分については元に戻されてしまうので、結果的に借金を返した相手とのトラブルに発展することになることも考えられますし、否認権が行使されるような行為をした際には免責不許可事由に該当してしまう場合もあり得ます(免責不許可事由について詳しくは、こちらをご覧ください)。

もし、破産を考えているというような場合には、借金の返済などにも気を使わなければいけませんし、否認権が行使されることによって想定外の不利益を被ることがないように一度弁護士に相談する方が無難かもしれません。

当所では、破産を考えているというご依頼がありました場合には、このような破産をする際に注意をすべきことについて依頼者様に分かりやすく説明し、依頼者様に不利益が生じないよう法的アドバイスをしてゆきます。

まずはお気軽にご相談ください。