新宿清水法律事務所

財団債権について

以前のコラムで破産法の免責を受けても免責されないものとして財団債権があると紹介したことがあります。もしかすると、せっかく免責を受けるのにこの財団債権が多額であるならば免責の意味がないように感じてしまう方がいらっしゃるかもしれません。では、どういうものが財団債権になるのでしょうか。今回は財団債権について紹介します。

新宿清水法律事務所コラム:破産による免責の効果

財団債権とは

財団債権とは、破産法(以下では、「法」といいます。)2条7項で、「破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。」と定義されています。破産財団が「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」を言いますので、財団債権に該当する債権については破産手続中でもその都度、破産財団に含まれている破産者の財産等から支払われていくことになりますし、言い換えれば財団債権を有する債権者は、通常の破産債権に先立って、弁済を受けることができます(法151条)。

財団債権に該当する債権としては大きく2つに分類できるとされています。

一つは、破産手続を進めていき、破産債権者に対し配当をするといった一連の流れのために必要な費用に関する債権で、これを「本来的財団債権」と呼ぶことがあります。

もう一つは、通常の破産債権と同様ではあるものの政策上の理由から財団債権にしているもので、これを「政策的財団債権」と呼ぶことがあります。

財団債権に該当する債権とは

⑴ 本来的財団債権

本来的財団債権に属するものとして、法148条1項が紹介するものとしては以下のものがあります。

・破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(法148条1項1号)

例えば、破産手続申立ての費用、破産手続開始決定の公告・送達の費用、債権者集会を開催するための費用などがこれにあたります。

・破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(法148条1項2号)

例えば、破産管財人の報酬や、財産目録・貸借対照表の作成費用などがこれにあたります。

・破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権(法148条1項4号)

例えば、破産管財人が第三者と契約を結んだ際にその第三者が有する債権や、破産管財人のした行為が不法行為にあたる場合の損害賠償請求権などがこれにあたります。

・事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(法148条1項5号)

例えば、破産財団に含まれる建物の修繕が必要と判断して義務なく修理を行った人が代わりに出した修繕費を払えといった場合の請求権などがこれにあたります。

・委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(法148条1項6号)

委任契約自体は委任者が破産をすると終了することになりますが、その後に急迫の事情があるために受任者が事務処理をすることもあり得ますがそれによって生じた費用についての請求権などがこれにあたります。

・破産管財人が双方未履行の双務契約の債務の履行をする場合において相手方が有する請求権(法148条1項7号)

例えば、破産者が第三者と売買契約を結んでいたが品物も代金も渡していなかったという場合に、破産管財人がこの契約を履行した方がいいと判断した場合に第三者が持つ請求権などがこれにあたります。

・破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れがあった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権(法148条1項8号)

例えば、破産者が破産したため従業員との間の雇用契約を解除したとして、その契約期間が満了するまでの間に生じた給料債権がこれにあたります。

 

これ以外にも、法54条2項や、法132条、法148条2項、法150条など破産法の様々なところに財団債権になるものについての規定が存在しています。

 

⑵ 政策的財団債権

政策的財団債権には以下のものがあります。

・破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないもの(法148条1項3号)

・破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料(法149条1項)

なお、破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当については退職前3か月間の給料の総額も財団債権とされます(法149条2項)。

破産手続終了後に未完済の財団債権について

破産手続の終了時に完済されていない財団債権がある場合に、個人の破産者が、破産手続終了後も完済されていない財団債権について支払わないといけないのかという点について、先日のコラムでは免責されないものとして紹介をしました。実はこの点について研究者の間では議論があります。その中では、個々の財団債権の性質や非免責債権とされる破産債権との兼ね合いから判断しようという学説も有力に唱えられているようです。

もっとも、条文上財団債権について免責の効力は及びませんから、現行の制度の下では支払わないといけないものと思っておいた方がよいかもしれません。

まとめ

財団債権と呼ばれるものにもいろいろなものがあります。財団債権にあたる場合は破産手続中も支払われることになりますし、免責されないということになっています。もっとも、破産手続中は、基本的に破産財団を管理する破産管財人が対応することになりますし、財団債権の制度は破産者が生活するのに必要な費用を随時支払うことができるようにしたものですのでその意味では破産者にとっても意義のある制度といえるでしょう。ただし、何が財団債権にあたるかという点は意識する必要があると言えます。

当所では、依頼者様の事情や免責されないものなどに関する破産法上の制度を踏まえ、依頼者様が破産という選択をするのがどのくらい実効的か検討した上で、依頼者様にとってどの選択をするのが最適か判断し、ご案内してゆきます。

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