新宿清水法律事務所

付郵便送達と公示送達

はじめに

相手方の所在や勤務先が不明であるとして裁判手続きを諦めていらっしゃる方、諦めるのは早計です。今回、御説明させて頂く方法で裁判手続きを利用できないかを今一度、検討されてみて下さい。

裁判所は、裁判権の作用として、原告や被告などの当事者やその他訴訟関係人に、確実に訴訟上の書類の内容を知らせるために、一定の方式により、書類を交付します。つまり、裁判所からお手紙が届くということですが、これを「送達」といいます。

「送達」は私たちが裁判という方法を選択するにあたって、その裁判の効果を相手に及ぼすためなど様々な場面で必要な手続きです。

「送達」は、基本的に送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所において行うとされており(民事訴訟法103条1項)、これらの場所が知れないときや、その場所において「送達」をするのに支障があるときには「送達」を受けるべき者の就業場所にて行うことができるとされています(同条2項)。ただ、「送達」の相手方が裁判所に出頭した場合には裁判所書記官が自ら裁判所内で書類を交付して「送達」をすることもできるとされています(民事訴訟法100条)。

しかし、送達相手が書類を受け取らない場合や郵便の届け先に相手がいないため、「送達」が行われないということもあり得ます。その場合には裁判の効果を相手方に及ぼすことができないので裁判を利用したい人からすれば不利益となってしまいます。

そこで、今回はこのような場合に「送達」を行うための代表的な方法をご紹介します。

付郵便送達

まず、一つ目の方法として、裁判所書記官が書留郵便で所定の場所(基本的には相手方が実際に居る場所)あてに訴訟上の書類を発送することで、発送した時点でその実施があったものと「みなす」という書留郵便等に付する送達(いわゆる付郵便送達)という方法があります(民事訴訟法107条、民事訴訟規則44条)。普通の「送達」では相手方に書類が到達した時点で「送達」されたことになりますので、その点が大きく異なります。

付郵便送達の場合には普通の「送達」の場合と異なり、就業場所への「送達」は認められていません(民事訴訟法107条1項参照)。これは就業場所が二次的な送達場所であることや受送達の事実がプライバシーに関わる事項であることを考慮したものとされています。

 近時、付郵便送達に関する高等裁判所の重要な判断がありました。その内容は以下のとおりです。

「付郵便送達をすべき受送達者の住居所は、受送達者が発送時において現に居住又は現在しているなどの実体を伴うことを要する。受送達者がかつて居住し、現在も住民登録がある場所であっても、旧住居が既に実体を伴っていない場合には、旧住所に宛ててされた付郵便送達は無効である。」

(仙台高秋田支部判平成29年2月1日判時2336号80頁)

この裁判例によれば、付郵便送達は受送達者が発送時にその場所に住んでいるなどの実体があることが重要で、形式上住民登録がある場合であっても実体がなければ付郵便送達による「送達」が認められることにはならないということになります。

 そのため、付郵便送達による方法をとる場合は実際にその場所に住んでいるなどの実体があるといえるかどうかを調査するなど、裁判所書記官が付郵便送達をすべきと判断するのに必要な準備をする必要があります。

公示送達

もう一つの方法として公示送達という方法(民事訴訟法110条)があります。公示送達は、相手方の住所、居所、就業場所がわからない、上記の付郵便送達も出来ない等の事情がある場合に利用することが出来ます。

公示送達は、裁判所が送達すべき書類を保管し、いつでも「送達」を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示板に掲示する方法で行われます(民事訴訟法111条)。公示送達は、裁判所の掲示板での掲示を始めてから2週間経過することで、「送達」があったことになります。

 このように公示送達は掲示板での掲示を2週間経過すれば「送達」があったことになるものですから、実際に「送達」を受けるべき者が掲示板を見ていなくとも「送達」が行われたことになります。

そのため、公示送達をすべきか否かについて裁判所書記官は慎重に判断しています。裁判所書記官が公示送達をすべき場合であるかどうかの判断材料は基本的に「送達」を求める人が提供した情報ですので、公示送達を求める場合には公示送達をすべきという情報を提供する必要があります。この場合には相手方の住民票や、近隣住民からの聴取調査報告書などを用意することが代表的な方法ですが、不十分なときには裁判所書記官から追加の調査を求められることもあります。

 ただし、公示送達を求めるために調査に必要だからと勝手に「送達」を受けるべき者の部屋に侵入して写真を撮るといった方法をとってしまえば住居侵入罪等の犯罪になりますし、プライバシーを過度に害する方法での調査をしたために「送達」を受けるべき者から損害賠償請求をされるなど更なるトラブルに発展することもあり得ますので、調査には細心の注意が必要です。

まとめ

以上見てきたように、法律では相手方に対し通常の「送達」ができない場合にとれる「送達」の方法も用意しています。これらの方法を利用して裁判手続きの利用が出来ないかを検討してみましょう。

 当所へ相手方に対する「送達」が難しいケースの御依頼を頂いた場合、当所では依頼者様から頂いた情報を吟味し、仮に通常の「送達」では難しく付郵便送達や公示送達を求める必要がある場合であっても、依頼者様が不要なトラブルに巻き込まれないよう細心の注意を払いつつ、裁判所書記官が付郵便送達や公示送達が必要であるということを確実に伝えることができる情報を集めるための適正迅速な方法を取ってゆきます。