婚姻費用とは
婚姻費用とは、衣食住にかかる生活費、交際費、医療費、子供の養育費等、夫婦やその監護下にある子供が共同生活を営むうえで必要となる一切の費用のことをいいます。
そして法律上、婚姻関係にある夫婦は互いに協力し扶助する義務が負担し(民法第752条)、また「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を相互に分担する」(同法760条)と規定されていますので、たとえ別居中の夫婦であったとしても、婚姻関係が継続している以上、婚姻費用の分担義務は消滅せず、夫婦のうち収入の少ない方(以下「権利者」といいます。)は、収入の多い配偶者(以下「義務者」といいます。)に対して婚姻費用の支払いを請求することが出来ます。
婚姻費用の算定方法
義務者の婚姻費用の分担額は、夫婦が話合いによって自由に決めることが出来ますが、別居を開始し離婚に向けた話合いをしている状態では、金額について折り合いがつかないことも少なくありません。
そのような場合は、後述のとおり調停や審判といった裁判所を通じた手続きを経て婚姻費用の分担額が合意ないし決定されることになりますが、この場合の婚姻費用の分担額は、実務上、原則として、東京・大阪養育費等研究会が作成した婚姻費用算定表(以下「算定表」といいます。)に基づき決定されてゆきます。例えば、夫の年収(給与)を450万円、妻の年収(給与)を100万円、0〜14歳の子供が2人いる家庭の場合、算定表に基づけば、夫が妻に支払うべき婚姻費用は月8〜10万円という算定になります。算定表は裁判所ホームページに掲載されていますので、誰でも閲覧可能です。
算定表は、特別な知識がなくとも、夫婦の収入や子供の人数・年齢を基準として婚姻費用の分担額を算出することが出来る有益なものですが、各家庭の生活状況は千差万別であり個別事情も存在するため、算定表に基づき機械的に算定した金額が不合理な内容となるケースも存在します。
そこで、以下のような事情が存在する場合に、算定表によると著しく不公平な結果となるような特別な事情がある場合には、算定表に基づく金額に修正が加わる可能性があります。
子供を私立学校に進学させる場合
算定表は、子供の公立中学、公立高校進学を念頭においているため、子供を私立学校に進学させる場合は、算定表に基づく婚姻費用のみでは子供の教育費を賄いきれない可能性があります。
そこで、子供が以前から私立学校に通っていた、また義務者が子供の私立学校への進学を了承していた等の事情が存在する場合には、婚姻費用の増額が認められる可能性があります。
子供に高額な医療費がかかる場合
算定表は、風邪を引いた際の通院費等、子供にかかる一般的な医療費は考慮していますが、高額な医療費については考慮していないため、大病を患っている、重度の障害がある等の特別な理由により、子供について高額な医療費が定期的にかかる場合には、算定表に基づく婚姻費用のみでは子供の医療費を賄いきれない可能性があります。
そこで、疾病の内容や障害の程度に鑑み、医療費として支出する必要性が存在する場合には、婚姻費用の増額が認められる可能性があります。
義務者に負債がある場合
義務者が金融機関等から借入れた債務を返済している状況であったとしても、原則として婚姻費用の減額は認められません。
もっとも、義務者の借入れが、権利者との夫婦共同生活を営むうえでの生活費不足を補填するため、やむを得ないものであったといえる場合には、権利者も一定割合で返済額を負担すべきであるという考えの下、婚姻費用の減額が認められる可能性があります。
裁判所を通じた婚姻費用の分担額を合意ないし決定する手続
夫婦間の話合いでは婚姻費用の分担額がまとまらない場合は、家庭裁判所に対して調停を申立て、裁判官1人と調停委員2人(原則男女1人ずつ)により構成される調停委員会関与の下で、婚姻費用の分担額に関する話合いを行っていきます。
そして、調停手続でも話合いがまとまらない場合には、手続は自動的に審判手続に移行し、当該夫婦の生活状況やこれまでの交渉経緯等、一切の事情を考慮したうえで、裁判所が審判により具体的な婚姻費用の分担額を決定することとなります。