少年事件では、家庭裁判所調査官と呼ばれる人々が事件に関与します。
この「家庭裁判所調査官」というのはどのような人々なのでしょうか。
事件について警察官や検察官のような捜査機関の人々との違いはどこにあるのでしょうか。
今回は、少年事件、少年審判の中で非常に重要な役割を果たす家庭裁判所調査官について解説していきたいと思います。少年事件及び少年審判でいう少年は、「20歳に満たない者」をいい(少年法2条1項)、民法上の未成年(民法4条、5条等)とは異なっています。年若い男子という意味ではないため、男女ともに20歳に満たない者であれば「少年」あたります。
なお、今回は少年が犯罪を認めている事件を前提に解説していきます。
家庭裁判所調査官とは
家庭裁判所調査官とは、各家庭裁判所においては、家事事件手続法で定める家庭に関する事件の審判及び調停、人事訴訟法で定める人事訴訟の第一審の裁判及び少年法で定める少年の保護事件の審判(裁判所法61条の2、同法31条の3第1項、同法61条の3)に必要な調査その他他の法律において事務を掌る者になります。
特に少年法で定める事務としては、①家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した場合の裁判官に対する報告(少年法7条1項)、②家庭裁判所が審判に付すべき少年があると思料する場合の事件についての調査(同法8条1項)、③被害者等から被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があった場合の聴取(同法9条の2)などがあげられます。
このうち、少年審判において、少年やその保護者に対して行われる調査は、②の調査となります。
調査内容について
少年審判に関する家庭裁判所の行う調査には、法的調査と社会調査がありますが、家庭裁判所調査官が行う調査は社会調査になります。
法的調査とは、家庭裁判所が、事件記録に基づき審判条件や非行事実の存否について判断するものであり、担当書記官も補助するべきものと考えられていますが、家庭裁判所が自ら行うべきものとされています。
一方で、社会調査とは、少年に対してどのような処遇が最も有効適切であるかを明らかにするために行われるもので、家庭裁判所の命令に基づいて行われる調査です(少年法8条2項)。調査の対象としては、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等が対象となります(少年法9条)。
具体的な調査については、①事件記録や少年調査記録に基づく記録調査、②本籍照会、学校照会(少年の出身学校又は所属学校等に対する照会)、保護者照会(保護者照会書)、被害者等に対する照会などの照会調査、③少年、保護者、被害者等への面接調査(家庭裁判所調査官による調査官面談等)、④少年の行動観察、家庭、学校、地域環境等の観察調査、⑤心理学的、医学的検査(知能検査等)などがあげられます(少年審判規則11条1項2項)。
少年法
(調査の方針)
第九条 前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。
少年審判規則
(調査の方針・法第九条)
第十一条 審判に付すべき少年については、家庭及び保護者の関係、境遇、経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況等審判及び処遇上必要な事項の調査を行うものとする。
2 家族及び関係人の経歴、教育の程度、性行及び遺伝関係等についても、できる限り、調査を行うものとする。
3 少年を少年鑑別所に送致するときは、少年鑑別所に対し、なるべく、鑑別上及び観護処遇上の注意その他参考となる事項を示さなければならない。
このうち、③少年、保護者、被害者等への面接調査は最も中心的なものと考えられています。専門的な判断をするための情報収集、資料収集というだけでなく、教育的な働きかけを行って自己理解を深めるなどの保護的措置としても意味を持っているからです。
このような観点から、家庭裁判所調査官は、調査において、常に懇切にして誠意ある態度で臨み、少年の情操の保護に心がけ、おのずから少年の信頼を受けるように努めなければならないと定められています(少年審判規則1条2項)。
少年審判規則
(この規則の解釈と運用、保護事件取扱の態度)
第一条 この規則は、少年の保護事件を適切に処理するため、少年法(昭和二十三年法律第百六十八号。以下法という。)の目的及び精神に従つて解釈し、運用しなければならない。
2 調査及び審判その他保護事件の取扱に際しては、常に懇切にして誠意ある態度をもつて少年の情操の保護に心がけ、おのずから少年及び保護者等の信頼を受けるように努めなければならない。
これらの調査を行った後、家庭裁判所調査官は、調査の結果を書面で家庭裁判所に報告し、少年の処遇に関して家庭裁判所に意見を述べることになります(少年審判規則13条)。
少年鑑別所内での調査
社会調査においては、上記のように、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識や少年鑑別所の鑑別結果を活用することが求められています(少年法9条)。
少年鑑別所の鑑別は、心理検査、行動観察等によって、少年の心身の状況を把握したうえで、少年の非行行動を理解し、今後の処遇内容への指針とするためのものです。
少年鑑別所では、いわゆるIQを図る心理検査の実施から、絵を描かせたり日記をつけさせたりすることも含めた特定の課題を取り組ませるなどして少年の鑑別を行っていきます。
最終的には、少年鑑別所内での生活態度や少年鑑別所で出された課題への取り組み方等をふまえて、少年鑑別所は鑑別結果を家庭裁判所に通知することになります。
少年鑑別所法
(鑑別の実施)
第十六条 鑑別対象者の鑑別においては、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術に基づき、鑑別対象者について、その非行又は犯罪に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、その者の処遇に資する適切な指針を示すものとする。
2 鑑別対象者の鑑別を行うに当たっては、その者の性格、経歴、心身の状況及び発達の程度、非行の状況、家庭環境並びに交友関係、在所中の生活及び行動の状況(鑑別対象者が在所者である場合に限る。)その他の鑑別を行うために必要な事項に関する調査を行うものとする。
3 前項の調査は、鑑別を求めた者に対して資料の提出、説明その他の必要な協力を求める方法によるほか、必要と認めるときは、鑑別対象者又はその保護者その他参考人との面接、心理検査その他の検査、前条の規定による照会その他相当と認める方法により行うものとする。
(家庭裁判所等の求めによる鑑別等)
第十七条 少年鑑別所の長は、家庭裁判所、地方更生保護委員会、保護観察所の長、児童自立支援施設の長、児童養護施設の長、少年院の長又は刑事施設の長から、次に掲げる者について鑑別を求められたときは、これを行うものとする。
一 保護処分(少年法第六十六条第一項、更生保護法(平成十九年法律第八十八号)第七十二条第一項並びに少年院法第百三十八条第二項及び第百三十九条第二項の規定による措置を含む。次号において同じ。)又は少年法第十八条第二項の規定による措置に係る事件の調査又は審判を受ける者
二 保護処分の執行を受ける者
三 懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者であって、二十歳未満のもの
2 少年鑑別所の長は、前項の規定による鑑別を終えたときは、速やかに、書面で、鑑別を求めた者に対し、鑑別の結果を通知するものとする。
3 前項の通知を受けた者は、鑑別により知り得た秘密を漏らしてはならない。
まとめ
家庭裁判所調査官は、最終的な処遇意見(処分に関する意見)を出すことや専門的な知識をもとに少年の非行原因を特定し、少年に教育的な働きかけを行っていくこと等を考えると、少年審判のなかで非常に重要な役割を果たしているといえます。
家庭裁判所調査官の調査を受けるに先立って、弁護士に相談して前もって非行原因を考えたり教育的な働きかけを行ったりしていくことで、事前に家庭裁判所調査官の調査に備えることも重要です。
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