新宿清水法律事務所

特定少年

令和4年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、少年法上の「少年」は「20歳に満たない者」という定義を維持し、18歳、19歳の者についても少年法の適用対象としています。

ただ、少年法上、18歳と19歳の少年については、「特定少年」として通常の少年審判とは異なる定めがなされている部分があります。

今回は、特定少年について解説していこうと思います。

特定少年とは

特定少年とは、18歳以上の少年のことをいいます(少年法62条1項)。

特定少年の場合であっても、少年法1条の「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずる」という目的は引き続き適用されます。

そのため、基本的な少年審判手続の枠組みには大きな変更はありません。

特定少年の場合の特則

少年法では、次に列挙する特例を定めました。

①保護処分決定の方法

②原則検察官送致対象事件の拡大

③推知報道の禁止を公判請求後に解除

④ぐ犯の適用除外

⑤刑事事件の特例の一部不適用

⑴ 保護処分決定の方法

・特定少年に対する保護観察

特定少年に対する保護観察には、6カ月の保護観察(64条1項1号)と2年の保護観察(同項2号)の2種類が定められました。

6カ月の保護観察は、比較的軽微な罪を犯し、その問題性が小さく、遵守事項違反の場合の収容の仕組み(保護観察の遵守事項に違反した場合に少年院へ収容する仕組み)がなくても改善更生を図ることができると認められた者に課すことが想定されています。罰金以下の刑に当たる罪の事件については、6カ月の保護観察が法律上の上限になりました(少年法64条1項ただし書)。

一方で、2年の保護観察は、保護観察の遵守事項に違反した場合に少年院に収容する仕組みが設けられている保護観察になります。家庭裁判所は、2年の保護観察決定をするときには、1年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して、保護観察の遵守事項に違反した場合に少年院に収容することができる期間を定めなければならないことと定められました(少年法64条2項)。

・特定少年に対する少年院送致

特定少年に対する少年院送致決定をするときは、3年以下の範囲内において、犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定めなければならないものともされました(少年法64条3項)。

また、2年の保護観察の少年院の収容可能期間及び少年院送致の少年院の収容期間に未決勾留日数の全部又は一部を算入することができることになりました(少年法64条4項)。

 

少年法

(保護処分についての特例)

第六十四条 第二十四条第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、第二十三条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、少年が特定少年である場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもつて、次の各号に掲げる保護処分のいずれかをしなければならない。ただし、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、第一号の保護処分に限り、これをすることができる。

一 六月の保護観察所の保護観察に付すること。

二 二年の保護観察所の保護観察に付すること。

三 少年院に送致すること。

2 前項第二号の保護観察においては、第六十六条第一項に規定する場合に、同項の決定により少年院に収容することができるものとし、家庭裁判所は、同号の保護処分をするときは、その決定と同時に、一年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して同項の決定により少年院に収容することができる期間を定めなければならない。

3 家庭裁判所は、第一項第三号の保護処分をするときは、その決定と同時に、三年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定めなければならない。

4 勾留され又は第十七条第一項第二号の措置がとられた特定少年については、未決勾留の日数は、その全部又は一部を、前二項の規定により定める期間に算入することができる。

5 第一項の保護処分においては、保護観察所の長をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。

特定少年の場合、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内で保護処分をする旨明文で定められました(少年法64条1項本文、同条2項、同条3項)。

これは、民法上の成年である特定少年に対する保護処分については、民法上成年に達した者に対し,保護処分に教育的効果という本人の利益になる側面があるといって責任以上の不利益をその意思に反して課すことができないとの立場から,保護処分が行為責任の上限を上回ってはならないとしたものです。

これまで、少年の要保護性が高ければ犯した罪の行為責任を超える保護処分も可能であると考えられてきましたが、特定少年が責任ある主体と位置づけられたことから、このような制約が設けられました。

ただ、犯した罪の責任に照らして許容される限度を上回らない範囲内においては、要保護性基づいて保護処分を選択することになるという点はこれまでの少年審判と変わらないと考えられており、行為責任によって下限が画されたり、行為責任に比例した処分でなければならないとするものではありません。

⑵ 原則検察官送致対象事件の拡大

特定少年については、現行の原則検察官送致対象事件である「(行為時に16歳以上の少年であって)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」(少年法20条2項)に加え、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」も新たに対象となりました(少年法62条2項)。

「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」とは、強盗罪、強制性交等罪、非現住建造物等放火罪、建造物等以外放火罪等が新たな原則検察官送致対象事件となります。

原則検察官送致対象事件の範囲が拡大された理由は、特定少年は選挙権を有し、民法上も成年とされるなど、自律的な判断能力を有する責任ある主体と位置付けられたことから、これらの者が重大な犯罪に及んだ場合には、18歳未満の者よりも広く刑事責任を負うべきものであり、刑事司法に対する被害者を含む国民の理解・信頼の確保につながると考えられたためです。

62条2項2号では、「その罪を犯すとき特定少年に係るもの」と定められており、62条2項2号の原則検察官送致対象事件に当たるためには、行為時に特定少年であることが要件とされています。そのため、少年審判を受ける間に18歳となったとしても、原則検察官送致対象事件には当たりません。

ただ、原則検察官送致対象事件であっても、家庭裁判所による調査の結果、犯行の動機・犯行態様及び結果・犯行後の情況・特定少年の性格・年齢・行状及び環境その他の事情を考慮して、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは検察官送致をしないことができると定められております(少年法62条2項ただし書)。

⑶ 推知報道の禁止を公判請求後に解除

推知報道の禁止(少年法61条)については、特定少年が責任ある主体としての立場や被害者を含む国民の理解の観点から、特定少年のときに犯した罪により公訴を提起された場合における記事又は写真については適用しないこととされ、公判請求の時点で推知報道の禁止が解除されることになりました(少年法68条)。

 

⑷ ぐ犯の適用除外

特定少年に対しては、ぐ犯の規定(少年法3条1項3号)は適用されないことになりました(同法65条1項)。

したがって、特定少年である場合は、少年の性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものと認められても、少年審判の対象にはならないことになります。

 

⑸ 刑事事件の特例の一部不適用

特定少年については、刑事処分相当を理由とする検察官送致決定がされた後の少年法における刑事事件の規定は、原則として適用しないことになりました。

勾留請求についての特例(少年法43条3項)、勾留状発付の要件についての特例(同法48条1項)、取扱い及び収容の分離の特例(49条1項、3項)は、いずれも適用されません(同法67条2項)。

また、被告事件の分離(同法49条2項)、不定期刑(同法52条)、労役場留置の禁止(同法54条)、懲役又は禁錮の執行の分離(同法56条1項2項)の各特例も、特定少年には適用がありません(同法67条3項4項)。

さらに、仮釈放及び仮釈放期間の終了についての特例(同法58条、同法59条)や資格制限の特例(同法60条)についても、特定少年の場合は適用されません(同法67条5項6項)。