破産をすると、財産を自由に使えることができなくなるという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、個人破産の場合、破産者も人間ですから生きていくためにお金を使う必要があるのは言うまでもありません。法には、破産者自身が自由に使うことができる財産についても定めがあります。そこで、今回は、法が定めた破産者に自由な管理処分が委ねられる財産について紹介します。
破産手続開始前の財産について
⑴ 法律上自由財産とされているもの
破産法は、破産者が管理処分できない財産について、破産法2条14項で、「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」(これを、「破産財団」といいます。)と定めています。そして、この破産財団に属するものとして、破産法34条1項で、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。」と定めています。そうすると、破産手続開始前に有していた財産については、破産財団に属するものとして破産管財人が専属的に管理処分を行うことになりますので、破産者自身が管理処分することはできなくなります。
しかし、「一切の財産」としている一方で、破産法は例外について定めています。
破産法34条3項
第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
1号 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭
2号 差し押さえることができない財産(民事執行法第131条第3号に規定する金銭を除く。)。
以上のような定めとなっています。この、「民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭」について、民事執行法131条第3号は、「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」と定めていて、ここでいう政令にあたる民事執行法施行令1条では、「政令で定める額は、66万円とする。」としています。
以上から、本コラムの掲載時現在では、政令で定める額の金銭である66万円の2分の3を乗じた額である
99万円
が、自由財産ということになります。
次に、差し押さえることができない財産、つまり差押禁止財産も、自由財産ということになります。差押禁止財産については、民事執行法131条各号に定められています。
条文を引用すると以下のとおりです。
1号 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
2号 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
3号 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
4号 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
5号 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
6号 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
7号 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
8号 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
9号 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
10号 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
11号 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
12号 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
13号 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
14号 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
これを見ていくと様々興味深いものも差押禁止財産として掲載されているのですが、一般的な方であれば、代表的なものである1号に記載されている「衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具」や、2号に記載されている「食料及び燃料」が差押禁止財産にあたるということを認識していれば大きな問題はないかと思われます。
⑵ 放棄財産
破産者が日々の生活に車を使っている、アパートを借りているなどの事情がある場合、「一切の財産」には、車やアパートを解約した際の敷金返還請求権なども含まれることになります。しかし、車も海外製のスポーツカーの様な価値のあるものならともかく中古車で売りに出したとしても残念ながら大した価格にはならないものである場合もあり得ます。また、アパートの敷金返還請求権を得るには賃貸借契約を解約する必要がありますが、そうすると返金された敷金として数万円を確保する代わりに破産者が生活する家を失うことになります。このように、破産財団にとっての価値は少ないものの、破産者の生活に必要不可欠と破産管財人が判断する財産がある場合には、破産管財人の判断でこれも自由財産とするため、財産の権利を放棄(破産法78条1項12号)して自由財産とすることがあります。
この規定により権利を放棄された財産も自由財産とすることができます。
⑶ 自由財産の拡張
以上で紹介したのは、破産管財人が権利を放棄したケースですが、他方で破産者自らが申し立てて自由財産の範囲を増やすという場合もあります。これは、破産法34条4項に規定されているもので、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に申し立てる必要がありますが、これが認められ、裁判所による決定が出されれば、破産財団に属しない財産の範囲、つまり自由財産の範囲を拡張することができます。
この自由財産の拡張が認められるかどうかの基準については、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情により判断されることになります。一つの金額的な目安としては、先に紹介した99万円という額が挙げられ、自由財産に属する財産の総額が99万円を超える場合には自由財産とすべき相当な事情がなければ認められないおそれは大きくなると思われます。
2 破産手続開始後に取得した財産
先ほど、破産財団に属する財産として破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産という紹介をしました。つまり、破産手続開始後に得た財産は、上の定義には当たらず、破産財団に属する財産にはあたらないことになりますので、自由財産とすることができるということになります。
ただし、破産法34条2項で「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。」という定めがありますので、破産手続開始前に原因がある場合には、たとえ財産を得るのが破産手続開始決定後であったとしても破産財団とされてしまうことになります。
例えば、破産者が破産手続開始決定後も引き続き会社で働き、給料を得た場合、破産手続開始決定後の労働の対価にあたる部分は自由財産とすることができます。
他方で、先ほど敷金返還請求権の紹介をしましたが、これを具体的に得るのは破産手続開始決定後になることもあるかと思いますが、敷金返還請求権の発生原因が破産手続開始決定前にある場合には、破産財団に属するということになります。
まとめ
以上で紹介したように、破産者であっても自由に使うことができる財産は存在します。しかし、やはり破産手続の間は自由に使える財産は大きく制限されるものと認識した方がよいものと思われます。破産という選択をする場合にはその点も視野に入れるべきですし、特に破産手続が長期間に及ぶおそれがある場合には自由財産の範囲も十分に認識しておく必要があるといえるでしょう。
当所では、依頼者様の事情を踏まえた上で、破産という選択肢を取るかどうか、破産手続になった場合の見通しを想定し、破産手続によるリスクがどの程度を踏まえ、破産手続により依頼者様が受ける制限も考慮した上で、破産という選択肢を取る場合には上記で紹介した手続きも利用しながら依頼者様のリスクを極力減らしつつ、依頼者様の望むゴールに向けて迅速に行動してゆきます。
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