罪を犯してしまった方、また、予期せずして、自身が罪を犯してしまったのではないかと考えられている方は、逮捕されるのではないかという不安感がつきまとうことと思われます。そうした方からすれば捜査機関が逮捕に踏み切るその日は突然やってくることになります。
当所でも、そうした事情から自首を迷われている方に向けたコラムを掲載したことがあります。
コラム:自首について
もっとも、その裏では逮捕すべきかどうか司法によるチェックが必ず入ります。そこで、今回は司法によるチェックの際に検討される逮捕の要件について紹介します。
なお、逮捕には大きく分けて通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類がありますが、ここでは令状に基づく逮捕である通常逮捕を念頭に紹介します。
通常逮捕の要件
通常逮捕について刑事訴訟法は次のように規定しています。
刑事訴訟法199条1項本文(ただし書を除く)
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の予め発する逮捕状により、これを逮捕することができる。
このように規定されていますので、逮捕をするには被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、逮捕状があることが必要であることがわかります。また、同条2項ただし書には、裁判官が逮捕状を発しない場合として「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない」と規定されているため、逮捕の必要性も要件とされています。そこで、これらの要件のうち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」、「逮捕の必要性」について詳しく見ていくことにします。
罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」は特定の犯罪の嫌疑を肯定できる客観的・合理的な根拠があることが要求されています。
この点について裁判例では以下のように述べられたことがあります。
相当な理由とは捜査機関の単なる主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏づけられた客観的・合理的な嫌疑でなければならない。もとより捜査段階のことであるから、有罪判決の事実認定に要求される合理的疑を超える程度の高度の証明は必要でなく、また、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までも要求されていないことは勿論であり、更には勾留理由として要求されている相当の嫌疑(刑訴法六〇条一項本文)よりも低い程度の嫌疑で足りる
(大阪高判昭和50年12月2日判タ335号232頁)
つまり、証拠資料に裏付けられた客観的・合理的な疑いは要求されますが、要求の程度は起訴するのに足りる程度や勾留の際に要求される程度よりも低いということになります。
逮捕の必要性
逮捕の必要性について、刑事訴訟法199条2項ただし書が「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない」と規定したことから、逮捕の必要性の判断は明らかに必要がないか否かという判断によることになると理解されています。つまり、「相当な理由」がある場合において、逮捕が明らかに必要でない場合でなければ、逮捕状が発付されることになります。
逮捕が明らかに必要でない場合かどうかは、被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重・態様その他諸般の事情を総合的に考慮し、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがあるかどうかで判断されるとされています(刑事訴訟規則143条の3)。そのため、明らかに逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがない場合は逮捕の必要性がないということで逮捕されないということになります。
刑事訴訟法199条1項ただし書の場合
ところで、先ほど紹介しなかった刑事訴訟法199条1項ただし書には以下のように規定されています。
ただし、30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
このことから、例えば、過失により人を怪我させてしまった過失傷害罪(刑法209条1項)など軽微な罪の場合には、住所不定または正当な理由のない不出頭といった逮捕をする強い必要性がある場合に限って逮捕が許されるものとされており、これ以外の犯罪と区別されています。
まとめ
今まで見てきたことからわかるように、軽微な事件などの例外を除き、逮捕は証拠資料に基づいて客観的・合理的な根拠こそ要求されるものの、そのハードルさえクリアしてしまえば要件を満たすことになる場合がほとんどです。
もっとも、逮捕をすべきかどうかの判断は、まず、捜査機関に委ねられることになりますので、捜査機関からみて逮捕する必要がない、言い換えれば被疑者を逮捕しなくても捜査ができると判断した場合には逮捕されないということもあり得ます。
当所では、依頼者様のご相談内容を踏まえて、逮捕の必要性がないといえる場合には捜査機関に対し逮捕の必要性がないことを説得的に伝えるなど、依頼者様にとってベストの結果を獲得できるような弁護活動をしてゆきます。
まずはお気軽にご相談ください。