今日では、法律上の結婚ではなく内縁関係という選択をする人も少なくないと思います。また、内縁関係として現在同居している人も数多くいらっしゃると思います。しかし、今日の緊急事態宣言下で在宅勤務になり、共にいる時間が増えて、その結果として喧嘩が増えてしまっているということもあるかもしれません。もしかすると、関係解消を考えている人もいるかもしれません。
ただ、内縁関係が認められる場合に正当な理由なく安易に関係解消をしようとするのはリスクがあります。
そこで、今回は内縁関係について紹介したいと思います。
内縁関係についての判例の考え方
内縁関係について説明したリーディングケースとされる判例として、最判昭和33年4月11日民集12巻5号789頁があります。これは、婚姻届こそ出していないが結婚式を挙げた男女が同居していたものの、結婚式から1年半後、男性側の家族が女性の荷物を同居していた家から引き上げるよう女性に要求したことで関係が解消され、一方的な破棄に対し女性が男性を訴えたという事案です。
この事案で、最高裁は以下のように内縁について説明しています。
いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。
このように述べて、内縁関係も男女が協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点では婚姻関係と異なることがないと説明した上で、内縁も保護せられるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責任を肯定することができるのである。されば、内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、不法行為を理由として損害賠償を求めることもできるものといわなければならない。
このように述べて、内縁関係の不当な破棄をされた場合には不法行為を理由として損害賠償を求めることができるとしています。なお、当時は婚姻予約の不履行という債務不履行の点も挙げていましたが、近年では不法行為での構成をとる裁判例が増えてきています。
以上で述べたように、内縁関係が認められる場合にはその関係も法律上保護される利益であり、これを不当に破棄した場合には損害賠償を求めることが可能であると示していますので、法律婚でないからと安易に内縁関係の解消に走ろうとすれば損害賠償請求をされることになります。
なお、この事案では女性が内縁関係の期間中に患った肺結核の治療費も婚姻費用の一環として請求していて、この点についての判断の点でもこの判例は注目されていますがその紹介はまた別の機会にします。
内縁関係が認められるかどうかについて判例の紹介
では、どのような関係が内縁関係と認められるのでしょうか。
この点については明確な基準があるものではありませんので、今日までの多数の裁判例を踏まえて探っていくしかありませんが、最高裁まで争われた一つの例(最判平成16年11月18日判時1881号83頁)を紹介したいと思います。
最高裁は、
①上告人と被上告人との関係は,昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたるものであり,両者の間には2人の子供が生まれ,時には,仕事の面で相互に協力をしたり,一緒に旅行をすることもあったこと,
②上記の期間中,両者は,その住居を異にしており,共同生活をしたことは全くなく,それぞれが自己の生計を維持管理しており,共有する財産もなかったこと,
③被上告人は上告人との間に2人の子供を出産したが,子供の養育の負担を免れたいとの被上告人の要望に基づく両者の事前の取決め等に従い,被上告人は2人の子供の養育には一切かかわりを持っていないこと,そして,被上告人は,出産の際には,上告人側から出産費用等として相当額の金員をその都度受領していること,
④上告人と被上告人は,出産の際に婚姻の届出をし,出産後に協議離婚の届出をすることを繰り返しているが,これは,生まれてくる子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等によるものであって,昭和61年3月に両者が婚約を解消して以降,両者の間に民法所定の婚姻をする旨の意思の合致が存したことはなく,かえって,両者は意図的に婚姻を回避していること,
⑤上告人と被上告人との間において,上記の関係に関し,その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。
といった事情を認定した上で、内縁関係であるとの主張を否定し、その関係破棄について損害賠償請求を否定しています。
この判例では共同生活をしたことも共同の財産形成をしたこともないことや、両者が意図的に婚姻を回避していること、関係存続に関する合意がされていないことなどの点から両当事者の生活上の協力関係がなく、また、その意思もないことを重視して関係存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえないと考えたという見方ができます(この判例は様々な解釈がなされていて、ここでの解釈はあくまで一例です)。
他方で、近年、内縁関係の不当破棄による損害賠償請求が認められているものも考えると、一つの考え方としては同居や協力関係といった法律婚でも要求されている点をどの程度行っているかということが一つの基準になるかもしれません。
まとめ
以上で紹介したのはあくまで一つの例ですが、内縁関係が認められるかどうかの判断は事情により変わるものと思われますので一概にどうであると一般化するのは難しいところです。ただし、内縁関係が認められ、その関係を不当に破棄すれば損害賠償の請求がなされてしまうことは先ほど紹介した判例により確立されていますので、正当な理由のない安易な関係破棄は危険といえるでしょう。
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